プラスの言葉とマイナスの言葉

掲載日:2022年4月1日(金)

生き物の世界には2対6対2の法則があるといいます。二つの2は対極をなし、6はどちらか勢力の強い方になびいていくというものです。例えば、細菌の世界では2割が善玉菌で、対極の2割が悪玉菌です。残りの6割は日和見菌といいます。そして、善玉菌の影響力が強いと、6割の日和見菌は善玉菌になるといいます。それが「発酵」です。悪玉菌が強ければ6割はそちらになびき、8割が悪玉菌になります。それが「腐敗」です。

おこだでませんように

週一回発行の『日本講演新聞』の編集部の野中さんという方が、「大人のための絵本セラピー」に参加された時のことです。主催者で絵本セラピストの岡田達信さんが、いろいろな絵本を紹介して読み聞かせをされました。そして最後に『おこだでませんように』という絵本を読まれました。その本が一番印象に残ったそうです。
「おこだでませんように」とは、「おこられませんように」ということです。
 絵本に登場する小学校1年生の主人公のぼくは、毎日怒られてばかりいます。自分の言い分はあるのですが、先生やお母さんに「ダメじゃないの、何してるの!」と怒られると、何も言い返せずに、下を向いてしまいます。
 そんなぼくが、先生から「七夕の短冊に願い事を書きましょう」と言われ、「大好きな先生やお母さんにおこだでませんように」と書きました。それを見て先生もお母さんも「ごめんね」と言って、抱きしめたという話です。
 この後、主催者の岡田さんが「皆さんも怒られるのは嫌ですよね。逆に皆さんが言われたい『ほめ言葉』を10個書いてください。そして、隣同士で交換して、棒読みでもいいから交代で相手に読んであげてください」と言いました。
 実際にそうしていくと、野中さんはだんだん体が熱くなるのを感じたそうです。まわりの人もみんな同じような感じだったそうです。そこで岡田さんが言いました。
「皆さん体が熱くなってきたでしょう。熱くなってもらうのがこの狙いだったのです。人間というのは、ほめられると体温が上がるのです。逆にけなされると体温が下がるのです。体温が上がると血液の流れが良くなり免疫力が高まって誰でも健康になれるのです。皆さん、ぜひ普段からほめ合う生活をしてくださいね」
 私達の体に毎日発生しているガン細胞は低体温が好きだそうです。35度くらいが一番増殖しやすいそうです。体温が上がるにしたがってガン細胞は弱っていき、42度になると完全に死滅してしまうという研究報告もあるようです。

昔、読んだ本に、岡山の黒住教の開祖・黒住宗忠翁の話がありました。ある日、一人のハンセン病患者が黒住翁のところにやってきて、病気の苦しさを切々と訴えました。そこで黒住翁は患者に対して「毎日百遍ずつ『ありがとうございます』と、一週間言いなさい」と教えました。「一週間経っても一向に良くなりません」と言ってきたので、今度は「毎日千遍ずつ『ありがとうございます』と、一週間言いなさい」と教えました。それでも「一向に良くなりません」と言ってきたのに対して、「では毎日一万遍ずつ『ありがとうございます』と、一週間言いなさい」と教えました。その患者は治りたい一心で一万遍の「ありがとうございます」を一週間唱え続けました。すると最後に、大変な高熱が出て寝込んでしまったといいます。そして熱がさめて起き上がってみると、全快していたというのです。

少し違う話ですが、これも参考になると思います。日本電産の創業者・永守重信会長の言葉です。
「日本電産を創業してしばらくは、技術的には非常にむずかしく他社がやらない試作品づくりのような仕事が大半でした。しかし、仕事は仕事、注文が来るたびに全員が喜びました。しかし、技術者を集めて、『できそうか?』と問い掛けるものの、当然『できます』という返事は返ってきませんでした。そこで私は技術者を並ばせて、『これから一緒に、〝できる、できる、できる〟と百回言おう』と言い渡し、彼らが『できそうな気持ちになってきました』と言うまで、二百回、三百回、五百回と繰り返したのです。こうしてわが社は新商品を次々に世の中に送り出していきました。ウソのような本当の話です」
 プラスの言葉を繰り返し発することによって、すべてが良い方向に変化をします。しかし、逆もまた真なりです。言葉には注意をしなければいけません。

ニュースの影響

 私達は日々、いろいろな言葉、情報に接しています。毎日見聞するニュースなどは、心地良いものよりも気分が悪くなるようなものの方がかなり多いように感じます。
 自動車用品の専門店「イエローハット」の創業者であり、「日本を美しくする会」の相談役でもある鍵山秀三郎さんは、新聞の社会面の暗いニュースを、自分の人生にプラスになると思えないからという理由で一切読まれないそうです。いつも心をきれいにしていたいから、そういうものに影響されないようにしているのだそうです。逆に、たとえ小さくても心が温まるような記事に目が止まると、それを切り抜いて保存し、何度も見るようにしているそうです。
 先に紹介した『日本講演新聞』というのは新聞と言ってもちょっと変わっています。普通の新聞には政治や経済などいろいろなニュースが載りますが、『日本講演新聞』にはそういう記事がありません。ある時、編集長が「うちの新聞は方針として、事件・事故のニュースは載せません。そういったものは人の人生に良い影響を与えませんから。政治・経済のニュースも載せません。なぜなら、政治や経済が良い国を作るのではなくて、人の心が良い国を作るからです。だからうちの新聞は日本でただ一紙、読むとホッとするニュースしか載せないのです。また新聞や雑誌はよく〝自分達が正しい〟という主張をしますが、それもしません。そういう主張は争いの種になるからです」と言っておられました。

「ありがとう」と「ごめんなさい」

『日本講演新聞』が『みやざき中央新聞』といった頃の心が和らぐ記事を一つ紹介します。
『ザ・シークレット 引き寄せの法則』という本がすごく流行った時期があります。〝世の中は引き寄せの法則で成り立っている。人は自分の思い・言葉・行動に共鳴したものを引き寄せる。だからプラス思考・ポジティブ(積極的)な生き方が大事だ〟ということが書いてあります。
 この本の話を『みやざき中央新聞』の編集長がある講演会でされました。すると一人の女性が「質問があります」と手を挙げました。「うちの娘は10年前、20歳の時に飲酒運転の車にひかれて亡くなりました。娘の何が事故を引き寄せたのでしょうか。親孝行で友達思いの良い子でしたのに」と言って、お母さんは泣き崩れました。編集長は〝しまった〟と思い、なだめるだけが精一杯で、その人を納得させる対応ができず苦しかったそうです。この経験から〝自分が良いと思ったことが、他の人にとっても必ずしも良いわけではない。言葉には気をつけなければ〟と悟られたのだそうです。
 その数カ月後に「いのちのまつり」というトークイベントに参加されました。『いのちのまつり』という絵本を書いた草場一壽さんが主催され、その中でフリーアナウンサーの副田ひろみさんが絵本の朗読をされました。
 その時、第一部は草場さんが子育てに関する講演をし、第二部は副田さんが草場さんの絵本を読むことになっていました。講演の後、会場から「どんな子育てをすればよいのですか?」という質問がありました。草場さんはその場で「〝ありがとう〟と〝ごめんなさい〟が言える子どもに育ったら、子どもは100点満点、育てた親も100点満点だと思いますよ」と答えられました。その時、次の朗読をするために舞台の袖にいた副田さんが、その話を聞いた途端に号泣して朗読ができなくなってしまったそうです。

実は数年前に副田さんは、大学を卒業して就職したばかりの息子さんを、23歳の若さで交通事故によって亡くしていたのです。副田さんによれば、息子さんが亡くなった翌年の1月2日、初夢に息子さんが出てきたそうです。そこで副田さんが「何してたの。お母さん心配してたのよ」と声をかけると、息子さんは「ありがとう」と、ただそれだけを言って、友達とどこかに行ってしまったそうです。目が覚めると、今度は娘さんが「お兄ちゃんの夢を見たよ。お兄ちゃんがお友達と楽しそうに話をしていたのでメールを送ったの。すると、お兄ちゃんからすぐに返信がきて『ごめんな、ごめんな』と書いてあったよ」と言いました。それを聞いて副田さんは〝息子は私に、23歳まで育ててくれてありがとう。でも23歳で死んでしまってごめんなさい。この二つのメッセージを伝えようとしたのだ〟と思ったそうです。「いのちのまつり」で初対面の草場さんから「〝ありがとう〟と〝ごめんなさい〟が言える子どもに育ったら、子どもは100点満点。育てた親も100点満点」と言われたので、息子さんのことを思い出し、涙が止まらなくなってしまったのです。

『いのちのまつり』は沖縄のお話です。一年に一度、お墓参りをした後、そこで飲めや歌えの宴会を親族でするそうです。なぜそういうことをするのかというと、〝生きている人が幸せそうにしている様子を見ると亡くなった人が喜ぶ。それが一番のご供養だ〟という思いがあるのだそうです。