仏性の花を咲かせましょう

掲載日:2013年5月1日(水)

利他行のすすめ 昭徳会の取り組み

最近、昭徳会の特別養護老人ホーム高浜安立荘で入所者のご老人の「オムツゼロ」が達成されました。

介護度が4とか5の人がオムツをしなくてもよいなどということは普通考えられないことです。それなのに入所者の全員が「オムツゼロ」になり、「優秀な施設」として、全国的に注目を集めています。

驚いたことですが「若年性認知症」や、クモ膜下出血など脳血管障害を患い50代くらいでも入っている人がおられます。

少し前、53歳の女性がクモ膜下出血で寝たきりとなり、しゃべることも食べることもできず「胃ろう」をして入ってみえました。ところが施設長さん以下、職員の皆さんの献身的な努力でその人は胃ろうが取れるようになりました。自分で食べることができるようになったのです。

人間、食べれるようになると元気になります。やがて話せるようになり、もともとお酒が好きな人だったとみえて「居酒屋に行きたい」と言い出されました。そこで「それじゃあ、みんなで行こう」ということになり、職員さんと居酒屋に行ってビールのジョッキを持ち「乾杯!」とやったそうです。病院ではないのですが、やり方によってはここまで回復するのです。

他にもそういう例がいくつかあります。それを新聞等で知り、いろいろなところから講演をして欲しいとの声があり、施設長さんがスポークスマンとなって講演をして回っています。

この話を聞いて嬉しくなり、是非、法音寺の本堂でもやって頂くようにお願いをしました。

  何のために勉強をするのか

これは駒方寮の寮長さんに聞いたお話です。

昔に比べて、現在はいろいろな意味で補助が充実してきました。たとえば、高校生、中学生の塾に行くお金が補助金で出るようになり、最近では小学生にも出るようになったそうです。「これで少しは学力が上がるかも知れません」と、寮長さんは言っておられました。

親が身近にいない子というのは、なかなか頑張れません。子どもは親に喜んでもらおう、褒めてもらおうと頑張るものです。そういう支えが無いから、施設では学力がなかなか上がらないのではないかと思います。

そういうことも含めて、御開山上人は、ご自分のことを「お父さん」と呼ばせ、保母さん達をお母さんと呼ばせることによって家庭と同じような雰囲気を作り、子どもたちを育てられたのだと思います。

  幸・不幸の違い

大変有名な関西の塾の先生で、生徒をたくさん一流高校に送りこんでいた木下晴弘さんという方がある時「勉強だけを教えて人間幸せになれるのだろうか」と疑問を持ち、卒業生1万人以上に電話をかけて「今、幸せか」と聞いたところ、半分の人が幸せ、半分の人が不幸せと答えたそうです。

幸せと答えた人は人の為に何かをやっている人で、不幸せと答えた人は「給料が安い」とか「上司が気に入らない」といった、自分中心の考え方の強い人でした。

今、木下さんは塾をやめ、人に幸せになってもらう為には何が大事かということを考え、教えていこうと、社会啓蒙家の道を歩まれています。

そういう方ですから、やはり教え子が頼ってきます。ある時「先生、飲みに連れて行ってください」と教え子が言って来たそうです。

でも、飲みに連れて行ってくださいと言うのに、「先生の分も僕が払います」と言ったそうです。

可愛い教え子からそう誘われて木下さんは「何か悩みがあるんだろうな」と思い、一杯飲みながら「今、どうしているんだ」と聞くと、浮かない顔をして「元気ですよ」と答えたといいます。「変な答えをするなぁ」と思いながら「仕事はどうなんだ」と聞いたら、「いや、実はそれなんですよ。そのことで実は先生と一杯やりたいと思ったんです。今の仕事をこのまましていていいのかなと。今の会社に入って本当に良かったのかな、こんなつもりじゃなかったのに、という感じなんですよ」とボツボツ話し始め、「入社試験の時には本部で管理業務をさせると言われたのに、実際に配属されたのは倉庫の荷物の仕分けでした。もっと頭を使う仕事かと思ったのに、ただ物を仕分けするだけの仕事なんて話が違う『こんなはずじゃなかった』と、毎日悩んでいます」ということでした。

  どんな仕事も“ええ仕事”

そんな時、木下さんは決まって松下幸之助さんの話をされるそうです。松下さんは生前、各地の自分の工場を、どんな小さな工場も必ず年に一回回られたといいます。

小さなソケットにつける豆電球を作る工場に行かれた時、工場の人が豆電球を磨いていました。それを見て松下さんはいきなり「ええ仕事やなぁ」と言われたそうです。豆電球を磨いていた工員さん達は、こんなことがどうしていい仕事なのかわからず、そんなことを言われたのも初めてなのでポカンとしていました。そうしたら松下さんが続けて、

「ええ仕事や。あんたらが磨いている電球はどこで光るか知ってるか?山間の小さな村にはまだ電気が充分に行き渡っていない所がある。そういう所にも人は住んでいる。そういう所に住んでいる人は夜になると何もできない。お母さんが家族のために縫い物をしようとしてもできん。子どもが本を読もうと思っても読めん。そこに電気がつくとな、お母さんは家族の為に縫い物ができる。

子どもは、昼間読んでいた本の続きが夜にも読める。本というのは人間の心を豊かにする。本を読んで子ども達は未来の夢を見るんだ。夜も読むと、その夢をずっと見続けることができるんだ。あんたらは子どもの心を夢の世界に躍らせ続ける手伝いをしているんだ。ええ仕事やろ」

うまいこと言われますね。そう言われて工員さんたちは「自分たちの仕事はそんなに偉い仕事なんだ」と思い、その途端うれしくなってボロボロ泣き出したそうです。

松下さんは常々「相手の人間性を認め、相手を尊敬し、相手の人格を尊ぶ。そういう心が大事である。そのためには、笑顔で人に接し、笑顔で人に言葉をかけ、笑顔で人に労いの言葉をかける。そう接するのが大事だ。そうするとお互いが相手の人間性を認め、相手を尊敬し、相手を尊ぶようになっていく。まず言葉をかけることが大事だ」と言ってみえたそうです。

以前本で読んだのですが、松下さんが事業を始められてすぐの頃、家と工場が一緒でした。松下さんはお風呂に入ったあとでも、まだ仕事をしている工員がいるとわざわざ「よおやってくれてるなぁ」と声をかけに行ったというのです。また、「あんまり長いこと働いて、体をこわしてもいけないからほどほどにしておけよ。早く帰らないと家族が心配するでな」と、毎日毎日声をかけに行ったというのです。

面白いことに人間は、声をかけてもらうと身近に感じ、その人の為に一生懸命頑張ろうという気になるものです。それが、松下さんの会社が大きくなっていった秘密の一つではないかと思います。

  仕事をする心構え

こういう話をしながら木下さんは、仕事のことで困って相談に来た教え子に「どんな仕事でも“ええ仕事”なんだ。君の仕事もそうだ。松下さんの言われる“ええ仕事”なんだ。君の物流の仕事は、ただ物を届けるだけの仕事じゃない。たとえば、そうだ、君にも彼女がいるだろう。その彼女にプレゼントを届けようと思っても、遠方なら物流を介さなければ届かないだろう。その時、君のプレゼントを扱う人がだだくさに扱ったらいやだろう。

丁寧に丁寧に、大切な人へのプレゼントだと思って扱ってくれたらうれしいだろう。そういう気持ちで君もやったらどうだ。『誰かから誰かへのプレゼントだ。丁寧に扱わないといけないな。誰かの思いがこもった物を届けるんだ』という気持ちでやると、仕事が楽しくなる。そしてもう一つ、そういう気持ちで君が仕事を一生懸命続けていくと、必ず別の仕事がすぐ与わるから、心配ないぞ」というアドバイスをされたのだそうです。

そう考えていくと、どんな仕事でも大きな意義があるし、気持ちしだいで必ず未来が開かれていくのだと思えてきます。

人間は、周りの人を喜ばしていると思うと喜べてくるものです。お金のためとか、生活のためしようがないからではだめなのです。周りの人に喜んでもらおう、縁ある人に喜んでもらおうと思って働いていると楽しくなってくるものです。

  利他の精神

仕事でも家事でも同じです。誰かに喜んでもらうためにやると、自分も楽しいし、そうするともっと喜んでもらえるという、いい相乗効果が現われてきます。

人間には「仏性」があります。仏性というものは、してもらうよりしてあげる方が喜べるようにできています。よく「仏性の花が開く」とか「仏性を開発する」と言いますが、人の為に何かをするという菩薩行をしていくと、仏性の花が開いて余計に人の為に何かをしたくなり、そういうことをするとどんどんうれしくなるという性質が、人間にはあるのです。仏さまは人間をそういう風に作られたのです。ありがたいことです。