いつも心を広く人に良い感じを与えましょう

掲載日:2014年11月1日(土)

対人関係の原則 人に惚れられる

徳川家康が跡継ぎの秀忠に“大将とはどうあるべきか”を教えている場面が山岡壮八さんの小説にあります。これは山岡さんが、家康の残した「大将の戒め」から取ったものだそうです。

「大将というものは敬われているようで、家臣は絶えず落ち度を探しているものだ。恐れられているようで侮られ、親しまれているようで疎んじられ、好かれているようで、憎まれている。したがって家臣というものは、禄で繋いではならず、機嫌をとってはならない。また、遠ざけても近づけてもいけない。そして、怒らせても、油断をさせてもならないものだ。

ではどうすればよいか。惚れさせることよ」

“惚れさせる”とは、相手から“好かれる。愛される”ということです。

家康と同時代の織田信長は、逆らう者は容赦なく殺し、恐怖によって人を支配しました。その結果、家来の明智光秀に命を奪われてしまいました。もう一人、豊臣秀吉は、気前良く施しをして人の心をつかんだと言われています。家康は大変な倹約家で、施しが良かったという話はあまり聞きませんが、おそらく人から好かれる(惚れられる)魅力があったのでしょう。ですから天下を治めることが出来たのだと思います。また、その後三 百年近く徳川の世が続いたのは、家康が「堪忍」を旨としていたことが大きな要因に挙げられると私は思います。

「人の一生は重荷を負うて、遠き道を行くがごとし。急ぐべからず。不自由を常と思えば不足なし。心に望みおこらば、困窮したる時を思い出すべし。堪忍は無事長久の基。怒りは敵と思え。勝つことばかりを知って、負くることを知らざれば、害、其の身に到る。己を責めて人を責めるな。及ばざるは過ぎたるに優れり」という教えを遺訓として残しています。

   人に好かれる為の原則

アメリカの有名な啓蒙家、デール・カーネギーの「人に好かれる為の原則」の中から3項目を紹介したいと思います。

一つ目は「笑顔を忘れない」です。

人と接する時に笑顔を忘れないようにすれば、それだけで人から好かれるとカーネギーは言います。世界中のホテルの中でも、特にサービスに定評のあるリッツカールトンホテルの電話受付をする人は、パソコンの横に鏡を置いて絶えず自分が笑顔でいるかを確認し、応対をするそうです。顔は見えなくても、表情は言葉にも表われるからです。

カーネギーがあるセミナーで「起きている間は毎時間かならず一回以上、誰かに笑顔を見せることを一週間続けて、その結果を皆の前で報告して下さい」と提案したところ、ウィリアム・スタインハートという人が体験したことを手記にて発表しました。

「私は結婚して十八年以上になるが、これまで、朝起きてから勤めに出かけるまでの間に、笑顔を妻に見せたこともなく、また一分としゃべった試しもなかった。世間にも珍しいほどの気難し屋であったが、カーネギー先生が笑顔について話されたので、一週間だけやってみることにした。その日の朝、頭髪の手入れをしながら鏡に映っている自分の不機嫌な顔に『おい、今日からはその、しかめっ面をよすんだぞ。笑顔を見せるんだ。

さぁ、さっそくやるんだ』と言い聞かせ、朝の食卓に付いた時、妻に『おはよう』と、にっこり笑って声をかけた。相手はビックリするかも知れないと先生は言われたが、妻の反応は予想以上で、ショックを受けていたようだった。それでも私は『これから毎日こうする。そのつもりでいるように』と言い、事実今では二か月間それが続いている。

妻にそうするだけでなく、毎朝出勤する時にマンションのエレベーターホールで出会う人にも笑顔で言葉をかけ、守衛にも笑顔で挨拶するようにした。地下鉄の窓口で釣銭をもらう時も同様、仕事場でも、私の笑顔をこれまで見たこともない人達にも笑顔を見せた。そのうち、皆が笑顔を返してくれるようになった。苦情や不満を持ちこんでくる人にも明るい態度で接し、相手の言い分に耳を傾けながら笑顔を忘れないようにしていると、問題の解決もずっと容易になった。

私はもう一人の同業者と共同で事務所を使用しているが、彼のところにいる事務員の一人に好感の持てる青年がいる。笑顔の効き目に気をよくした私は、先日その青年に人間関係について私の新しい考えを話した。すると彼は『初めて見た時はひどい気難し屋だと思っていましたが、最近ではすっかり見直しています』と正直に話してくれ、私の笑顔には『人情味が溢れている』とまで言ってくれた。

また、私は人の悪口を言わないことにした。悪口を言うかわりにほめることにした。自分の望むことについては何も言わず、もっぱら他人の立場に身をおいて物事を考えるように努めた。私が態度を変えてから二か月たつうちに、文字通り革命的な変化が起こった。私は以前とはすっかり違った人間になり、収入も増え、友人にも恵まれ、幸せな人間になった。人間としてこれ以上の幸せはもう望めないと思うほど、今は幸せを感じている」

素晴らしい変化です。さらにカーネギーは「どうしても笑顔が作れないような気分の時も、笑顔を作ることが大切だ」と言っています。笑顔によって感情が変わってくると言うのです。

掃除の菩薩と言われているイエローハットの創業者・鍵山秀三郎さんも「何かいいことがあったら感謝すると人は言うけれど、実は逆なのです。感謝をするからいいことがあるのです」と言われていますが、笑顔も同じだと思います。

二つ目は「名前を覚える」です。

一度だけ東京の帝国ホテルを利用したことがありますが、部屋からフロントに電話をしたら「ハイ、鈴木様、ご用件は…」と言われ、とてもいい気分になりました。一流のホテルに行くと必ずと言っていい程、名前で呼ばれます。“お客様”と言われるより、自分の名前を呼ばれると嬉しいものです。

アメリカの鉄鋼王と言われたアンドリュー・カーネギーにこんなエピソードがあります。

アンドリューの子どもの頃、飼っていたうさぎがたくさん子どもを産みました。“自分ですべての餌を用意するのは大変だな”と思ったアンドリューは、友達に「子うさぎの餌を取って来てくれたら、一匹ずつに君達の名前をつけてあげるよ」と言いました。するとみんな喜んで餌を取って来てくれたそうです。この経験を生かし、アンドリューは鉄鋼会社を作ってから、商談先の社長の名前を新しく作る自分の事業所の名前にしたりして、次々と大きな商談を成立させたそうです。

また社員の名前を全員覚え、その一人ひとりの名前を呼んで声かけをしたと言います。その結果、アンドリューがトップのあいだは、ストライキが一度も起こらなかったということです。

三つ目は「聞き手にまわる」です。

人間は、人の話を聞くより、自分のことを話す方が気持ちがいいものです。ただ相槌を打って話を聞いているだけでも相手は喜んでくれることがあります。自然災害の被害が大きかった被災地などでは「傾聴ボランティア」が大きな役割を果たしています。話を聞いてほしいという人がたくさんいるのです。

私の娘が大学の実習で「老々介護」をしている方の家にお手伝いに行きました。その家はおばあさんが寝たきりで、おじいさんが介護をしていました。介護のお手伝いに行ったのですが、おじいさんに「何もしなくていいから、私の話を聞いてくれ」と言われ、伺う度に2~3時間ずっと話を聞いていたそうです。

日達上人もよく「相談事や悩み事は、話をじっくり聞いてあげるだけで半分以上が解決したのと同じだ」とおっしゃられていました。そして「耳施(聞く施し)」という言葉を用いられたことがありました。「無財の七施」に一つ加えて「八施」にしてもいいのでは、と私は思っています。

   いつも「機嫌」よく

人に好かれるためには、何より穏やかで機嫌がいいということが大事だと思います。機嫌が悪い人や怒りっぽい人のところに人は寄って来ません。

今年の春、タモリさんが司会をしていたテレビ番組の「笑っていいとも」が終了しました。一人の司会者で最も長く続いた番組としてギネスに登録されましたが、こんな話を聞いて、その理由がわかったような気がしました。

タモリさんが以前、庭の十本の巨木を気に入り伊豆に別荘を買いました。そこで、仲の良かった鶴瓶さんを招待しようと思い、別荘の管理人に「今度鶴瓶さんを連れて行くから庭の木を切っておいてくれないか」と頼みました。そして鶴瓶さんと行ったら、お気に入りだった木が全部、根本から切り倒されていました。タモリさんは木を剪定しておいてほしかったのですが、管理人は勘違いして切り倒してしまったのです。

しかしタモリさんは「あっ、切ったんだ」と、あっけらかんと言ったそうです。それを聞いて鶴瓶さんが「普通怒るでしょう」と言うと「切っちゃったものはしょうがないよ。きちんと説明しなかった自分が悪いんだから、しょうがない、しょうがない」と言ったそうです。タモリさんの、物事に動じない、そして穏やかな人柄が、あの番組を長く続けさせた一つの要因だったのではないかと思います。