眠れる預言者

掲載日:2026年1月1日(木)

退行催眠(前世療法)によって前世を知ることで、現在抱えている悩みや苦しみの原因が明らかになり、その解消につながるということを先月号で紹介しました。

 今回は前世療法の本家本元とも言える人物、エドガー・ケイシーを紹介します。

 エドガー・ケイシーはケンタッキー州の貧しい農家に生まれました。21歳の時に喉頭炎になって声が出なくなりました。その時にレインという催眠術師に催眠術をかけてもらい、喉頭炎が治りました。それから不思議なことが起きました。ケイシーが催眠状態に入っている時に病人のことを聞かれると、その病人の肉体の状況を透視し、その原因と治療法を明らかにすることができるようになったのです。人はいつしかケイシーのことを「眠れる預言者」と呼ぶようになりました。この肉体を透視することをフィジカル・リーディングと言います。

 一つ有名な話を紹介します。

 アラバマ州セルマのある少女が精神錯乱状態になり、精神病院に入れられました。どうにかして治したいと思った両親がケイシーのところに相談に来ました。ケイシーはいつものように横になって催眠状態に入りました。両親が少女の名前を言って「精神の状態がおかしいです」と相談すると、ケイシーは透視をして「この女の子の歯茎に親知らずが一本食い込んでいる。それが脳神経を侵している。この歯を抜けば、この子はすぐに正常に戻る」と言いました。その後、歯を抜くとすぐに少女は正常な状態に戻ったということです。

 また遠隔透視もできたといいます。ケイシーは国内はもちろん、アメリカにいながら、国外にいる人のことも透視できたそうです。例えば対象が私だったとすると、「鈴木さん、今日そちらは風が強いですね」とか、「あなたの横には誰々がいて、あなたの病いが治ることを祈っていますね」などと言い当てたといいます。それによってケイシーの透視の真実性が増したということです。

 このようなケイシーの透視能力が次第に知られるようになると、金儲けに利用しようという者が現れてきました。ある時、「競馬の勝馬を教えてくれ」と依頼する人がいました。これは成功もするけれど、失敗もするという結果でした。普通の予想屋と変わらない程度でした。そういう時は催眠状態から目覚めた時にとても疲れていたそうです。エネルギーを消耗して、とても不快感が残ったそうです。

 また「テキサスで石油事業をやらないか」という話もありました。「油田のありかを透視してくれ」というのです。これは全く良い結果を得られませんでした。結果的にケイシーはこういう透視をすると、不確かであると同時に、すごく疲れることがわかりました。〝自分の能力は人を助ける時にだけ、確実に信頼するに足る。金儲けを目的とした時には力を発揮しない〟と実感したといいます。

【前世の発見】

 ケイシーが初めてライフ・リーディング(前世透視)を行ったのは、全くの偶然によるものでした。依頼者のホロスコープ(個人の誕生時の天体配置図で占星術のもとになるもの)を読みとるための透視を行っていたときに、その状況に遭遇したのです。1923年11月11日、ケイシーの故郷であるオハイオ州デイトンで、それは行われました。依頼者は、地元の実業家、アーサー・ラマーズという人物でした。ラマーズはリーディングの最中に「自分は前世で僧侶であった」と語り出したのです。ラマーズの依頼したホロスコープの透視とはかけはなれたものでした。

 この時、最も驚いたのはほかならぬケイシー自身でした。というのも、彼は輪廻転生を認めない敬虔なキリスト教徒だったからです。キリスト教では、人は死後、神の最後の審判を待つのみで、生まれ変わることはないとされているのです。

 しかしその後、ケイシーが聖書を詳しく調べたところ、かつては「人間は生まれ変わる」と記されていたことが判明しました。それが、ある宗教会議において聖書が改訂され、その記述が削除されたそうです。その理由は、神への信仰心を強めるためだったそうです。ケイシーはこの後、一気に生まれ変わりを信じ、積極的にライフ・リーディング(前世透視)を行うようになっていきます。

 ケイシーは自らの前世を透視した際、古代ペルシャ時代に「ユートル」という部族の族長であったことを知りました。その時の彼は有能な霊能者であり、複数の病院を建てるなどの活動を行っていたといいます。その時の人格が現在の彼に強く影響を与えていることがわかりました。

【死後の世界の存在】

 自分自身の前世を見たケイシーですが、それでも彼は、魂が死んだあとも本当に存続するのかを確かめてみたいと考えて、ある日、ウエスタン・ユニオン電報電話局を経営する実業家であり友人でもあるM・B・ワイリックにこう語りました。

「どちらか先に死んだ方が、あの世から必ず連絡を取るようにしよう」

 ケイシーにとっては冗談半分の提案でしたが、その後、ワイリックが先に亡くなりました。

 そんなことも、すっかり忘れてしまったある日、ケイシーは自宅の居間でラジオを聞いていました。すると、何となく部屋の中に誰かがいるような感じがしました。ふとラジオに目をやると、ラジオの前に男が座っているように見えました。その男は数年前に死んだ友人のワイリックだったのです。ワイリックは微笑みながら、「人格はやはり続くんだよ」と言いました。ケイシーはしばらくの間、椅子に座ったまま動けなくなりましたが、やっとのことで椅子から立ち上がり、ラジオを消して逃げるように妻のいる2階のベッドルームへ行きました。ケイシーの妻が「ラジオを消してこなかったの?」と言いました。それでケイシーは、今も階下から聞こえてくるワイリックの声が妻にも聞こえているのだとわかりました。自分だけの幻覚や幻聴などではなかったのです。最後にワイリックがケイシーに告げました。

「これでわかっただろう。死後の世界はあるんだよ」

 この出来事を通じて、ケイシーは死後も人間の魂が存在し続けることを確信したといいます。

【ライフ・リーディングの事例】

 ケイシーのライフ・リーディングを受けた人は、約2500人にのぼるといわれています。さまざまな事例がありますが、今回はそのいくつかを紹介します。

 ある生まれつき目の見えない大学教授がライフ・リーディングを受けたところ、紀元前1000年頃のペルシャにおいて、赤く焼けた鏝で敵の目を潰す部族の一員だったことが透視されました。この行為がカルマ(因果)となり、今世で彼の視力を奪ったのかもしれない、ということです。

 法音寺の始祖・杉山辰子先生も、これに似たことを語られたことがあります。ある時期、杉山先生は視力を失われましたが、こうおっしゃいました。

「これは過去世、私が武士だった時代に、弓で人の目を射抜いたことがある。その因果によって、私はある時期から目が見えなくなる。しかし、私は功徳によって、その因果を消滅させ、また見えるようになるから、心配にはおよびません」

 また、ニューヨークで手のモデルとして活躍している女性がライフ・リーディングを受けたところ、彼女は過去世において修道女であり、その時、人が嫌がるような手を汚すような仕事を率先して行っていたことがわかりました。その善きカルマの結果として、彼女は美しい手を持ち、手のモデルとして成功をおさめていたのだそうです。

 ケイシーによると、ある一生で努力して修得したものは、決して無駄にはならないといいます。また幼少期から天才的な技量を発揮する人がいるのは、過去世の積み重ねによるものだというのです。

 たとえば、モーツァルトです。なんと5歳の時にピアノ協奏曲を作曲したといいます。

 19世紀の天才数学者ガウスは、2歳の時に父親が従業員の給与計算をしているのを見て、「お父さん、間違っているよ」と指摘したと伝えられています。これらはそのよい例だと思います。

 また、こんな話もあります。アメリカ・ロサンゼルスに住む6歳の少年レイモンド君は、それまでピアノに触れたことがなかったにもかかわらず、突然流麗なジャズのメロディーを弾き始めました。驚いた父親が「どうしたんだ?」と尋ねると、レイモンド君は「指が自然に動くんだ」と答えたそうです。それから、レイモンド君は一日五時間ピアノを弾き続けました。それが次第に個性的なジャズの演奏スタイルになっていったのです。ジャズに詳しい人がその演奏を聴いて、「これは1943年に39歳で亡くなったファッツ・ウォーラーの弾き方だ。いや、もう、ファッツ・ウォーラーそのものだ」と言いました。こうして、「この子はファッツ・ウォーラーの生まれ変わりなのでは」と言われ、アメリカ中の人気者となったのです。

 ちなみに、ファッツ・ウォーラーが亡くなったのは1943年。レイモンド君がピアノを弾き始めたのは1971年でした。レイモンド君の父親はこの出来事を本にまとめ、後にそれが映画化されました。

【ソウルメイトと魂のつながり】

 ケイシーの話には、ほかにもさまざまな興味深い話があります。その中の一つに「ソウルメイト」という概念があります。

 ソウルメイトとは、魂の深いつながりを持つ伴侶や仲間のことを指します。つまり、魂同士に強い絆があるということです。伴侶であれば俗に言う〝赤い糸〟で結ばれているということです。中には、5人、10人、20人といった魂のグループがあり、ある時代に、そして次の時代にも、共に生まれ変わる人達がいるといいます。

 こうした魂のグループは、カルマ(因果)の問題をともに解決する仲間であり、同じ目的を持って生まれ、それぞれの役目を果たすために転生してくるのだそうです。

 法華経を信じ実行する法友は、ソウルメイトの関係と言えるかもしれません。

【輪廻からの解脱と選択権】

 ケイシーがライフ・リーディングを施した約2500人のうち、18人には大いなる存在から〝自らが望まない限り、もう地球に生まれ変わる必要はない〟という選択権が与えられていたといいます。つまり、輪廻の輪から解脱している人々です。

 ケイシーのライフ・リーディングの記録はすべて現在も残されており、その18人は「不要なる転生」という項目に分類されています。彼らには、以下の三つの共通点があるとされています。

 一つ目は、特別な聖人ではなく、ごく普通の人であること。

 今世で与えられた課題を真摯に受け止め、それに全身全霊で向き合っている人々です。困難から逃げず、誠実に問題を取り組む姿勢が特徴です。

 二つ目は、職業を通して自己を磨き、社会に貢献していること。

 職業意識や技術を高めることで自己成長を遂げ、さらにその働きによって周囲の人々を幸せにしています。医師、技術者、教育者など職業はさまざまですが、いずれも自らの仕事を通じて社会貢献をしているのです。

 三つ目は、奉仕の精神を持っていること。これが最も重要な共通点です。

 法華経的に言えば、常に菩薩行を実践している人です。人の幸せのために尽くすことを第一に考え、利己的な欲望や興味をすべて捨て去っているのです。

 これらのことが、地球への再生を必要としないとされた18人に共通していたのです。

 またケイシーは次のように語っています。

「18人は〝地上に戻らなくてもよい〟と言われている。しかし、〝もう戻ることはない〟とは言われていない。〝地上の人々の力になりたいと願う者は、再び戻ってもよい〟ということなのだ。最終的な選択権は本人に委ねられているのである」

 お釈迦さまは、法華経法師品第十において次のように述べておられます。

「薬王、当に知るべし、是の人は自ら清浄の業報を捨てて、我が滅度の後に於て、衆生を愍むが故に悪世に生れて広く此の経を演ぶるなり」

『法華三部経略義』巻三第十章・法師品(144頁)

(薬王菩薩よ、よく知りなさい。この人〈法華経を深く信じ、実践する人〉は、清浄なる功徳の身を捨てて、末法の世に生きる人々を愍むが故に、ともに苦しみ、ともに悩みながら、多くの人々に法華経を弘めるために、敢えてこの世に生まれてくるのだ)

 日蓮聖人は「地涌の菩薩に非れば唱えがたき題目」とおっしゃっています。今、お題目の信仰をし、それを弘める人は、ケイシーのライフ・リーディングの18人に勝るとも劣らない如来の使者であろうと思います。