明るさと笑顔が人生には大切です

掲載日:2013年7月1日(月)

「ツキを呼ぶ」行ない

晋山式にあたり、天気のことがよく気になりました。やはり雨より晴れたほうが愉快でありますし、行事の時に雨が降るとついつい「ついてないなぁ」という愚痴が出てしまいます。しかし、どんなことがあっても「ついてない」と思ったり、言葉にするのはよくないと思います。

  どんな時も「ついてる」

累積納税額日本一の斎藤一人さんという方が「絶対どんな時も『ついてる』と言わなければいけない。自分も言い続けてきた。だから本当についてる」と言われています。斎藤さんにはお弟子さんがたくさんみえますが、皆さん「ついてる」を言葉にすることを実践し、成功されています。

例えば雨が降って一張羅のスーツが濡れても「ついてるついてる。鳥にフンをかけられなくてよかった」。では鳥のフンだったらどうかというと「石でなくてよかった」と言うのだそうです。

このように一見「ついてない」と思われる出来事が起こっても、「ついてない」と思ったり、言葉に出したりしないで、無理をしてでも「ついてる」と言うことによって「運が向いてくる」と言われているのです。その斎藤さんのお弟子さんがこんな話をされています。

「みなさんがそば屋さんに行かれた時、そばが食べたいと思っても『かつ丼』と注文したらかつ丼が出て来ますよね。これ冗談に思うけど本当ですよ。思っても口に出さなければ実現しないのです。口に出したことは実現します。ですから『ついてない』と思って口に出すと、どんどん『ついてない』ことが起きてきます。ですからどんな時でも『ついてる』と言った方が絶対にいいですよ」

これは確かなことだと思います。

  “居着くは死ぬる”

米長邦雄さんという、昨年亡くなられた将棋連盟の会長さんが「ツキ」について研究し、何冊も本を書かれています。その中で「ツキは努力をした人のところにやってくる。努力をせずに『ついてるな。運がいいな』と思うことがあったら気を付けたほうがいい。宝くじに当たるとか、ビギナーズラックでギャンブルに勝つと嬉しくなると思うが、逆に『悪運』を招きよせていることがある」と言っておられます。

米長さんは、宮本武蔵の『五輪書』の「千日の修行を鍛とし、万日の修行を錬とす」や「居着くは死ぬる手なり」という言葉が大好きだったそうです。

「居着くは死ぬる手なり」とは「もうこれでいい。十分修行したと思ったら、剣の世界では相手に負けて死ぬことになる。だからいつまでも、まだまだと思って努力を続けることが大事だ」ということです。米長さんはこれを実際に体験し、その話をしておられます。

40歳くらいの時、若手を育成する道場を作って自分の将棋を教えました。すると、若手の上達は思ったより早く、米長さんはよく負けるようになってしまいました。そこで、恥を忍んで若手に「どうして私は君たちのようなかけだしの人に負けるんだ」と聞くと、「先生は型が決まっています。だから先生の手の先が読めてしまうのです。私達は時によって手を変えるので臨機応変です」と答えました。

この時、米長さんは「自分は居着いていた」ということを悟られたのです。それ以来、若手に恥を忍んで教えを乞うようになりました。自分の道場だけでなく、若手が主催している研究会にも積極的に参加をし、10歳も20歳も年下の若手に「先生、教えて下さい」と言われたそうです。同年代の棋士からは「米長さん、カッコ悪いからやめてくれ」と言われたそうですが、それでも「教えてもらう時は、相手は先生だ」と言って、頭を下げて教えを乞いました。そうした努力が実って、何と50歳で名人になられたのです。

普通、名人には「天才的な」人が若くしてなるものだと言われています。しかし、努力に努力を重ねればいつか必ず、勝利の女神がほほえんでくれるということを体験されたのです。また別の体験から、「明るさや笑顔がまた、勝利の女神を呼びこむことになる。暗い人間は勝利の女神に嫌われる。だから対局中もできるだけ困ったような顔はしないほうがいい。女神が逃げてしまうから。また、大事なのが負けた時だ。負けた時は本当に惨めで、すべてを失くしたような感じになる。泣き言も言いたくなる。

弁解もしたくなる。それが駄目だ。勝利の女神が二度と来てくれなくなる。負けた時ほど爽やかな顔をした方がいい。そうすると勝利の女神がまた来てくれる」と言われているのです。

  素直な子どもができる家庭

明るさや笑顔は「ツキ」を呼ぶ大切な要素だと私も思いますが、もう一つ米長さんは「素直・謙虚、そして礼を守ることが大事だ。傲慢な人には絶対にツキがこない。今の強い若手はみな、非常に素直で謙虚だ」と言われています。ある時、タイトルを取るような若手はどういう家庭で育ったのかを調べるため、家庭訪問をされたそうです。そこで一つの結論に達しました。

「素直な子どもができる家庭は、とにかく明るい。明るく伸び伸びとした雰囲気がある。そして両親の仲が良い。お母さんがしっかり者で、お父さんは笑っているだけ。そういう感じがいい。そういう家庭で育った人は、非常に素直で、礼儀正しく、勝負に強い。昔はそういう人間は勝負に弱いとされてきたが、時代が変わってきた」

  礼儀を守る

これは礼儀の話ですが、将棋の世界で関係者が非常にお世話になっていた旅館の老主人が亡くなり、同じ時に、将棋の対局記を書いてくれていた年老いた新聞記者も亡くなりました。二人とも同じ日にお葬式があったから、米長さんは旅館の老主人の葬式に行き、奥さんに新聞記者の葬式に行ってもらったそうです。その時のことを米長さんは、次のように言っておられます。

「旅館の主人は過去の人だから若手の棋士は来ないだろう。特に大事な対局を控えている谷川くんや羽生くんはまず来ないだろうと思っていたが、谷川くんが葬式に来ていた。それを見て新聞記者達に『今度の谷川×羽生の対局は間違いなく谷川の勝ちだ。

こういう場に来るような礼儀の正しい人間は、絶対に勝利の女神が見離さない』と言って家に帰ったのだが、家内に『葬式の様子はどうだった』と聞いたら『昔の記者さんですから、ほとんど今の方達は見えてませんでした。でもね、羽生さんがみえてたんですよ』ということを聞いて、すぐに先程の新聞記者達に電話をして『今度の対局はわからん』と言っておいた」ということでした。

誰しも「ツキ」を呼びこみたいと思っておられることでしょう。

ぜひ今回の話を参考にしていただけたらと願っております。