「笑い」の力で自然治癒力を高めましょう

掲載日:2016年5月1日(日)

「笑い」の効能  「ほめ合い」の効能

私が毎週読んでいる宮崎中央新聞という週刊新聞は、感動する話、ほほえましい話しか載せないという新聞です。その編集部の野中さんという方が絵本のソムリエと言われている岡田達信さんの「大人のための絵本セラピー」に参加された時のお話です。その時、岡田さんがいろいろな絵本の読み聞かせをして、その後に感想や印象、そして「この後、物語はどうなると思いますか?」と参加者に聞かれたそうです。それぞれが真剣に自分なりの答えを言うと岡田さんは「はい。全員正解」と言われたそうです。その人その人の感じたことが、すべて正しいということだと思います。

野中さんはそこで出合った『おこだでませんように』という絵本が一番印象に残ったと言われています。小学一年生の「ぼく」が主人公の絵本です。

主人公の「ぼく」はお母さんや先生に怒られてばかりいました。自分なりに言い分はあるのですが、それを言うともっと怒られるので、いつもずーっと下を向いていました。そんな「ぼく」が、七夕の時に短冊に願いごとととして大好きな先生やお母さんに「おこだでませんように(怒られませんように)」と書いたのです。それを見た先生とお母さんが反省をして、「ごめんね。よく書けたね」と言って、「ぼく」を抱きしめたというお話です。

この絵本を読んだ後、岡田さんが参加者に「皆さん、自分が言われたいほめ言葉を十個書いてください」と言われました。そして、書き終わると「書いた紙を隣の人と交換して向き合い、お互いに言ってあげて下さい」と言われました。野中さんは「さすがだね」とか「いい笑顔!」とか「天才!」などと書いたそうです。それを隣の人が読んでくれました。聞いていて野中さんはだんだん、うれしいような恥ずかしいような気持ちで体が熱くなってきたそうです。周りの人を見ると、野中さんのように顔を上気させた人がたくさんいました。この熱くなることが岡田さんの狙いだったのです。ほめられると人間は心から嬉しくなって体温が上がるのです。お風呂に入ると体が芯から温まるような、そんな感じになるのです。ほめ言葉とはそういうものなのです。体温が一度上がると免疫力が一.六倍になるのです。一方、人からの非難や罵倒などの言葉は体温を低下させ、免疫力を大幅に下げてしまいます。

岡田さんが最後に言われたそうです。

「私たちの潜在意識は発言の主語を理解できません。他人に向けた言葉でも自分が言われたときと同じように反応してしまうのです。言葉には凄い力があります。子どもを叱ってばかりいると、その子だけでなく自分の体をも壊してしまうことになります。自分と相手の体のためにも、ほめ言葉、いい言葉を積極的に使いましょう」

   二つのストレス

『生命の暗号』という本を著わされた遺伝子研究の第一人者、村上和雄先生のお話です。

人間には日々さまざまなストレスがかかります。そのストレスには二種類あります。ポジティブ(積極的)ストレスとネガティブ(消極的)ストレスです。

ポジティブストレスは、ほめられたり感動したり、また笑ったり、「ありがたいな」と感謝する中に生まれます。

ネガティブストレスは、人から罵倒されたり嫌なことを体験すると生まれます。

この二つのストレスについて村上先生は「ポジティブストレスを受けると血圧や血糖値が下がり、ネガティブストレスを受けると上がる」とおっしゃっています。

村上先生は十数年前、お笑い芸人のB&Bに協力してもらい、その実験をされたのです。初期の糖尿病の患者さんを二十人程集め、二日に分けてこんなことをされたのです。

一日目。軽い昼食後、専門のお医者さんに「糖尿病はいかに怖いか」という話をしてもらいました。

すると、食前に測った血糖値よりも平均で123ミリも上がっていたそうです。人によっては200ミリ以上も上がったそうです。「糖尿病は怖い」と聞いて血糖値が上がってしまったのです。

二日目。同じように昼食後、B&Bの漫才を聞いてもらいました。そうしたら笑いによって、血糖値は平均して77ミリ下がっていたと言います。

これを世界に向けて発信すると世界中から「B&Bという特効薬を分けてほしい」という、笑い話のような問い合わせが殺到してびっくりされたそうです。

同じような話があります。先日、昭徳会が開いた「福祉セミナー」で講演して頂いた、「笑い」を医療に取り入れておられる高柳和江先生のお話です。

小児科医として中東のクウェートにおられた時の体験です。この国の人々はとてもフランクで、お医者さんも患者さんに対して大変友好的な感じだったそうです。お互いが全くの対等で、初めての患者さんに対しても「こんにちは」と、お医者さんの方から握手を求めるのだそうです。

また、日本人の場合、お医者さんから「余命何年です」と言われるとガクッとなりますが、クウェートの人は「そうですか。しかし、私の寿命は神様が決めてくれるのですから、先生に決めてもらわなくてもけっこうです」と言うのだそうです。アラーの神への信仰心が強いのです。そのせいか、日本では治らないと思われているような病気が治ることが多いそうです。

子ども達もとても活発で、例えば日本では、大手術をした子は一週間くらいは安静にしているものですが、クウェートの子は次の日にもう、「お腹すいた。先生、チキン食べていい?」と言うそうです。そういう子どもの回復は、日本の子どもに比べて随分早いと言います。

以前、イギリスの『ランセット』という医学雑誌に「乳がん患者の予後について」という論文が載りました。

「ああ、私はもうだめだ。人生終わりだ」と、悪いことばかり考える人は経過年数四年で二割しか生きていないけれど、クウェート人のようにポジティブに日常生活を送っている人は、十三年後ですら生存率が八割だったと言います。心の持ちようでこんなにも違いが出るのです。

   「笑い」の効能

高柳先生は「ポジティブな心に一番大事なのが笑いであるが、その笑いは、心からの笑いでないといけない。心からの笑いは、ほめられた時に出る」とおっしゃっています。人からほめられた時に人間は心から笑うことができるのです。

その高柳先生が、以前青森県知事の要請で「笑いのワークショップ」を開催されました。笑いを日常生活に取り入れて人間をどんどん健康にし、幸せにしようという企画です。当時青森県は自殺者がとても多かったそうです。

まず高柳先生は、集まった人同士向かい合ってもらい、

「握手をしてください。握手をすると皆さんニコッと笑いますよね。そこから、相手の本当に『いいな』と思うところを考えて、考え抜いてほめてください。ほめられた人も考え抜いて、相手の人をほめてください」とプログラムをスタートさせました。

ほめ方もいろいろで、相手の人の着ている物が良く見えたからと言って、「素敵なお洋服ですね」とほめるのはあまりよくなくて「このお洋服を選ぶあなたのセンスが素敵です」とほめるのが、効果的なのだそうです。

その高柳先生が先の村上先生と対談をされたことがあるのですが、高柳先生に村上先生が、「私だったらどのようにほめていただけますか」と聞いたところ「先生の目が素晴しい。真理を追究しようとするその目が素晴しい」と高柳先生はほめたのだそうです。たしかに、このようにほめられると喜びも倍増するような気がします。

そういうことを三日間したところ、「リュウマチで足が変形してしまったお婆さんが、一日目は杖をついて来て、二日目には杖を突いていたけれども背筋はスッと伸びていた。三日目には杖なしで来て、こんなことは何十年ぶりだと言われた」とか「心に大きな傷を負い、ストレスで三十年近く人前で大きなマスクを外せなかった男性が、このプログラムの終了後の記念撮影の時にはマスクを外し、にっこり笑ってピースをした」というような、大きな変化がありました。そして終了後のアンケートには「活力がわいてきた。頭の回転がよくなったと感じる」といった回答が何通かありました。また別のアンケートには「職場に嫌な人がいなくなった」「自分のことを好きになった」「自殺を思い留まった」という回答もあったそうです。高柳先生は「人のいいところを探そうと頭をずっと使っていると頭の回転がよくなり、ボケ防止にもなります」とおっしゃっています。

三日間でいろいろな変化がありましたが、初めは、地味な色合いの服装で来た人たちが、だんだん明るい服を着て来るようになり、それに伴って会場の雰囲気も明るくなっていったと言います。

「笑い」については、こんな例もあります。高柳先生の友人のお医者さんの話です。「先生、悪性リンパ腫になってしまいました。第四期なんです」とファックスが届きました。高柳先生はその方に「とにかく笑いなさい」と伝えました。するとその方は「やっとの思いで医学部に入り、小児科医になり、食べ物にも気をつけて、マラソンもして、身体に気を使っていたのにこんなことになってとばかり思っていたけど、もうそれを思うのをやめます。とにかく笑います」と言って、入院中、毎日、昼食後、大阪城に行って大きな声で笑ったそうです。しかし、それから三か月後「もう笑えません。脊髄に転移しました」と言ってきました。それに対して高柳先生は「笑いが足りない。もっと笑って。自然治癒力で治るものは治る。大いに笑って自然治癒力を育て、健全な細胞の分裂・分化を促進させましょう」と書いてファックスを送ったそうです。それを見てその人は、抗がん剤の点滴を受けながらも大いに笑って、笑い話を自分で作って、周囲を笑わせたそうです。外来通院になると、車で二十分ほどの森の中を歩き、大好きな木に抱きついて「ワッハッハ、僕は治るぞ、治るぞ!」と叫んだのです。すると「ワッハッハ、僕は治るぞ」とこだまが返ってきて勇気づけられたそうです。その方はこれを「こだま療法」と名付けたそうです。

それから一年経って、高柳先生に嬉しいファックスが届きました。「奇跡です。腫瘍が消えました。感動しています。ありがとうございました」という内容でした。

これを特殊な例ととらえるか、誰にでも起こりうることととらえるかが、前回のプラス思考、マイナス思考の分かれ目かもしれません。読者の皆さんには、ぜひプラス思考で、ポジティブストレスの中で生きていただきたいと思います。

※絵本セラピー:絵本を使って自分自身を見つめ直し、再発見する大人のためのワークショップ(研修会)