第6回:少子・高齢社会の中の日本の福祉

掲載日:2017年2月24日(金)

先日、フランスで生まれた新しい認知症ケア技術『ユマニチュード』の創始者イブ・ジネスト先生、日本に『ユマニチュード』を紹介・導入された独立行政法人国立病院機構東京医療センターの本田美和子医師の講演会に参加する機会を得ました。数年前より『NHKクローズアップ現代』でも『ユマニチュード』のケア技術について紹介されていましたが、ユマニチュードは「見る」、「話す」、「触れる」、「立つ」を4つの柱とし、150以上のケア技法で構成されています。

(1)「見る」とは、視野が狭くなっている認知症高齢者の正面からゆっくり近づき、相手のアイコンタクトを得てから話しかけます。

(2)「話す」とは、これから行うケアの内容をポジティブな言葉で積極的に、まるで実況中継するかのように話しかけるのです。物事を忘れやすい認知症の方でも安心してケアを受けることができます。

(3)「触れる」とは、人間関係の親密さを感じる方法として、ボディタッチは効果的な方法と言われていますが、ケアをする際、本人の背中や手を優しく包み込むように手のひらを使って触れることで、安心感を得ることができます。逆に、手首をつかむ行為は、どこかに連行される感覚を与え不安にさせてしまいます。

(4)「立つ」とは、自らの足で立つことにより、二足歩行である人間としての自覚につながり、本人の意欲が出てきます。

これらのケア技術の組み合わせにより、これまで寝たきりで意思疎通も困難であった認知症高齢者の方が、この技術により意思疎通が可能となり、歩行できる状態にまで回復した事例や、介護されることに拒否の強かった認知症高齢者の方が、笑顔になり介護に拒否がなくなる等、認知症高齢者のケアに携わるものとしては衝撃的な内容でした。このユマニチュードでは、ケア技術もさることながら、「最期の日まで人間らしい存在であり続けることを支える」

つまり

①人間としての特性を自覚する
②認知症高齢者の周囲にいる人々が人間と認識する
③「絆」・「関係性」を大切する

という哲学が前提となっています。

この講演会で最も衝撃を受けた映像が、海外の戦闘地域で収容されている子どもたちの映像でした。幼児期より大人からの愛情のある視線や声かけ、そして触れ合いを受けてこなかった子どもたちは、言葉かけにも反応しない、目線を合わすことができない等、まるで人間とは思えない表情・行動をしているのです。つまり、人間は幼少期より「可愛いね」とやさしい視線(見る)、やさしい言葉(話す)かけ、やさしい触れ合い(触れる)等、大人の「愛情」を受けて初めて人間として自己認識、喜怒哀楽という「情動」が獲得できるのであって、これらの経験ができなければ人間として認識・成長することができないということです。

視点をかえれば、これまで人間として人生をすごしてきた高齢者の方が、認知症という病気になった途端、その奇怪な言動を目の前にした周囲の人々が、無視する・視線を合わせない(見る)、周囲の人から厳しく叱責(話す)される、納得しないまま無理やり手を引っぱられトイレ等に連れていかれる(触れる)という言動は、認知症高齢者の自尊心を傷つけ、「自己重要感」を喪失させてしまったのです。その結果、人間として自己認識することが脅かされた反応として、「自己防衛本能」により、「暴言・暴力」等のBPSD(認知症の周辺症状)の出現や、現実逃避として内的世界に閉じこもった結果、意思疎通困難な状況に陥ってしまったのです。このユマニチュードの技法は、人間が人間として自己認識できる、「自分は人間だ」、「自分は大切にされている」と確認できることで、喜怒哀楽という「情動」に対して、「安心」を感じさせるケアの技法として今、注目を集めています。

編集後記
不注意により膝の靭帯損傷で不自由な生活を送っています。不自由な生活は、当たり前にしている日常生活に対して感謝できるよい機会です。何もない日常生活を過ごせることが「幸福」なのですね。